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「外食市場の空白を狙う “低価格×エンタメ”業態の実力」

急成長を遂げる【大衆酒泉テルマエ】株式会社BIRCH代表取締役 高橋光基氏に聞く

若年層から強い支持を得る「大衆酒泉テルマエ」。

その背景には、綿密なブランド設計、SNSを軸にしたマーケティング、そして危機をチャンスに変えてきた経営判断があった。

今回は、創業の軌跡から現在のブランド戦略、そして未来の展望まで、株式会社BIRCH 代表取締役・高橋光基氏に話を伺った。

インタビュアー 三ツ井創太郎(株式会社スリーウェルマネジメント)

創業 ― 23歳で飲食業界の中核へ

創業 ― 23歳で飲食業界の中核へ

(株式会社BIRCH代表取締役 高橋光基氏)

高橋氏が飲食業界に本格的に足を踏み入れたのは23歳の時だ。前職の飲食グループに入社し、わずか2年で6〜8店舗規模から70店舗規模への拡大を牽引するポジションを任されていた。

「23歳で採用や業態設計まで全部任せてもらったんです。大変でしたが、自由を与えてもらえて、“何でもしていい”というのが、すごく楽しかったです。」

エリアマネージャーなどを歴任し、店舗運営のノウハウを吸収していった高橋氏だが、入社当初から「2年後には独立して会社を作る」と当時の代表に伝えていたという。

「独立する事でもっと仕事を面白くできるのではないか、という思いが常にありました。会社員として働く以上、どうしても会社の代表が決めたルールの中で動くことになります。私は、ゲームをプレイするよりも、ゲームのルールをつくる方が好きなので、自分で会社を作り、そこでみんなに働きながら楽しんでもらうということがしたかったんです。」

2019年6月、25歳で株式会社BIRCHを設立。当初は個室居酒屋など3店舗からのスタートだった。

 

創業半年に訪れたコロナ禍。利益マイナス1,000万円からの業態転換

ようやく創業店舗が軌道に乗り始めた頃だった。

コロナ禍による急激な売上減、営業時間短縮、休業要請。飲食店にとって最も厳しい時期が突然訪れる。

「2019年12月に1,000万円規模の利益が出て、“これは行けるな”と思った瞬間にコロナが来て、売上がどんどん落ちていって…。正直、あと3カ月でキャッシュアウトでした。」

この窮地を脱するために着手したのが、名古屋で運営していた個室居酒屋の業態転換だ。高橋氏は当時をこう振り返る。

「“何か新しい業態をやらなければまずい”と会社のメンバーと話す中で、テルマエの最初の案が生まれました。そのときに出てきたのが、“蛇口からお酒が出る”という発想でした。」

さらに、高橋氏自身の“お風呂文化への愛”が重なり、「サウナ」「銭湯」をモチーフにした世界観と、キャラクター「テルマエ隊長」の設定が生まれた。

「蛇口からお酒が出るという点と、それを安く提供しようという話は最初からあったんですが、それだけでは愛されるブランドになるのかどうか心配でした。個人的に好きなサウナや銭湯と組み合わせて、“お酒の泉を発掘した”というストーリーはどうだろうという話になりました。」

「外食市場の空白を狙う “低価格×エンタメ”業態の実力」

(メニューブックに掲載されているテルマエ隊長のストーリー)

企画から出店の意思決定まで、わずか1ヶ月。

2021年11月に業態変更を行った名古屋店は、月商300万円から1,000万円へとV字回復を果たした。

コト消費とデフレ消費の両立で狙った市場の空白地帯

コト消費とデフレ消費の両立で狙った市場の空白地帯

(蛇口からお酒が湧き出る酒泉)

テルマエの最大の特徴は、壁面に設置された蛇口から客自身が酒を注ぐセルフスタイルと、客単価約2,200円という低価格設定にある。

「これからの時代がどう推移していくかを私たちなりに予想しました。賃金は上がりにくい一方で物価は上昇していく中で、消費者は安いものに流れていくだろうと。そこから、エンターテイメント性の高さと、価格の安さが両立されたところが、市場の空白ではないかと考えました。」

「コロナ禍でも外食を続けていた若者が必然的にターゲットとなったことも、低価格設定の理由のひとつです。」
実際に、テルマエの客層は20代が約74%を占め、店舗によっては90%に達することもある。若者が自由に使える可処分所得の中で、最大限に楽しめる場所として選ばれているのだ。
「飲み放題は1時間398円からという価格設定にしています。過去に検証としてお茶割りを数十円で提供したこともありましたが、結果として飲み放題比率が下がり、利益率が悪化しました。現在は飲み放題の利用率を90%に設計し、収益と顧客満足度のバランスを最適化しています。」

「外食市場の空白を狙う “低価格×エンタメ”業態の実力」

(テルマエの飲み放題メニュー)

 

「空中階・地下」への出店戦略と高生産性モデル

テルマエの強みは、その出店戦略にも表れている。現在展開している店舗の約7割が地下・空中階だという。

「私たちは創業時からWeb販促を活用した空中階、地下への集客を得意としていました。コロナ禍の影響で空中階の物件が空いてくるので、空中階でも、再現性のある状態を居抜きで取ることができれば、店舗拡大を見込めるのではないかと考えました。」

また、オペレーションの効率化も徹底している。

「蛇口からお客様ご自身で注いでいただくスタイルは、エンタメ性を高めると同時に、ドリンク場の人件費削減にも直結します。また、料理の仕込み時間を極力短縮できるようメニュー開発を行っており、1時間程度で仕込みが完了する店舗もあります。FL比率(食材費と人件費)の基準値を48%程度に設定し、高い利益率を実現しています。」

「外食市場の空白を狙う “低価格×エンタメ”業態の実力」

(1.9万人のフォロワーがいるテルマエのInstagram※2025年12月時点)

「コロナ禍にどうやって販促するのかを考えたら、SNSしかないというくらいの感覚だった」と語る高橋社長は、創業期から徹底してSNSマーケティングに取り組んできた。

「お客さんが自分で投稿したくなるような商品を、ただ単に載せるだけでなく、全体の設計から計算して作り込んでいます。なので、マーケティングは基本的に社内で行っています。」

マーケティングを、単なるデザインの話ではなく、ブランディングの根幹に関わる機能として考えているという。
「私達はマーケティングを単なる集客ではなく、ブランディングの一部として考えています。ブランディングはお客様と我々を繋ぐ架け橋のようなものです。経営者でも、スタッフでも、お客様でも、ブランドやコンセプトが定義されていないと迷ってしまう。そうならないよう社内では、コンセプト、ブランディングを詰める作業を重視しています。」

また、株式会社BIRCHのマーケティングにおいて特筆すべき点は、このようなブランディングを重視した集客マーケティングが、採用マーケティングにもシームレスに繋がっていることだ。通常、飲食店の“集客ターゲット”と“求人ターゲット”は異なるケースが多いが、酒泉テルマエの場合は二つが完全に一致している。

「テルマエの“SNS映え”が求人においても効果を発揮しています。ターゲットが20代の若者であるため、お客様とスタッフの年齢が近く、集客のためのSNSマーケティングが、そのままリクルートマーケティングとしても機能しているんです。一貫したブランディングによって、採用においても、再現性を高めていきたいと考えています。」

「外食市場の空白を狙う “低価格×エンタメ”業態の実力」

「飲食従事者の社会的地位向上」を目指して

「飲食従事者の社会的地位向上」を目指して

高橋社長は次なるステージを見据えている。

「私たちのミッションは”飲食従事者の社会的地位向上“です。とにかく、生産性の高い業態を私たちが作っていくんだという意識があります。そして、それをパートナーの皆さんとともに広めていくことが必要不可欠だと考えています。テルマエに関しては、日本国内で121店舗を展開するプロジェクトとして進めていますが、それとは別に、今後、海外に展開できるような業態を作成しているところです。将来的には20から30のブランドを持ち、世界中にお店がある企業というのを目指しています。」

大衆酒場の競合が増えていく中で、差別化戦略について、次のように語る。

「来年以降はフランチャイズの出店を増やし、その中で新しい業態にリソースを割いていきたいと思っています。徹底的なブランドの作り込みと展開のスピードによって差別化を図っていこうと考えています。」

コロナ禍の危機から、冷静な未来予測とユニークな発想で這い上がった株式会社BIRCH。その「蛇口」から湧き出るのは、単なる酒ではなく、これからの外食産業を生き抜くためのヒントそのものかもしれない。

 

インタビュアー 三ツ井創太郎

編集 金山悠吾